
【はじめに】
宿泊施設の運営において、OTA(Online Travel Agent)経由の予約は欠かせません。しかし、OTAへの手数料負担は、施設の利益率を圧迫する最大の要因です。
利益を最大化し、安定した経営基盤を築くためには、「直販予約(ダイレクトブッキング)」の割合を高めることが必須となります。そして、直販予約の主戦場となるのが、あなたの施設の**「公式ホームページ」**です。
私はこれまで、民泊事業を中心に1000施設以上の運営に携わり、Web戦略、ブランディング、集客の最前線で事業を拡大させてきました。その経験から断言できます。多くの宿泊施設が、**Webサイト制作において致命的な「失敗」**を犯しています。
本稿では、プロの視点から、「予約が入らないホームページ」の典型的な失敗パターンを解き明かし、直販予約を劇的に増やすための**「成功するWeb戦略」**を、最新の業界動向と制度改変を踏まえて具体的に解説します。
1. 失敗するWebサイト制作の「3つの落とし穴」
多くの宿泊施設のホームページは、「施設案内パンフレットのWeb版」で終わってしまっています。予約が入らない施設が陥りがちな3つの典型的な失敗を見ていきましょう。
失敗1:制作会社任せの「見た目重視」デザイン
「おしゃれなデザイン」「最新の技術」を追求するあまり、「予約を生む」という本来の目的を見失っています。制作会社は技術やデザインのプロですが、宿泊予約の集客・コンバージョンのプロではありません。
- 落とし穴: 費用をかけても、予約動線が不明確で、ユーザー体験(UX)が考慮されていない。モバイル対応が不十分、ページの読み込み速度が遅いなど、基礎的な使い勝手を無視している。
- 成功への転換: Webサイトは「集客ツール」であり「営業マン」です。デザインよりも「CVR(予約率)」を最優先し、予約ボタンは常に目立つ位置に配置し、クリック数を増やすための改善を繰り返す前提で構築すべきです。
失敗2:OTAとの「価格・在庫・情報」の差別化不在
ユーザーは、施設名で検索した後、公式HPとOTAを比較検討します。この時、**公式HPに「予約する明確な理由」**がなければ、慣れ親しんだOTAで予約してしまうのは自然な流れです。
- 落とし穴: 公式HPの料金がOTAと同じ、もしくは高い。公式HP限定のプランや特典がない。OTAに掲載されている情報(写真、アメニティ、詳細ルール)と内容が同一である。
- 成功への転換: 「最安値保証」は必須です。加えて、公式HP限定の「特別な付加価値」(例:ウェルカムドリンク無料、レイトチェックアウト、限定アメニティ)を提供し、**「ここで予約するのが最もお得で便利」**というインセンティブを与える必要があります。
失敗3:「誰に」「何を」伝えたいか不明確なコンテンツ
ターゲット顧客のニーズを深く理解せず、施設のスペックや自慢話ばかりを羅列しているケースです。
- 落とし穴: ターゲット(例:ファミリー、カップル、ビジネス、インバウンドなど)が曖昧で、誰の心にも響かない「無難」な情報に終始している。ユーザーが知りたい情報(アクセス、周辺観光、施設の独自性)がバラバラに配置され、探す手間がかかる。
- 成功への転換: ペルソナ(理想の顧客像)を設定し、そのペルソナが「解決したい課題や叶えたい欲求」に焦点を当てたコンテンツ(例:ワーケーション特化の設備紹介、子連れファミリー向け周辺情報マップ)を充実させます。
2. 利益を最大化する「成功するWeb戦略」の全体像
直販予約率を高め、利益率を改善するためには、公式ホームページを核としたWeb戦略全体を構築する必要があります。
ステップ1:施設ブランディングの再定義とWebへの落とし込み
単なる「宿泊場所」から脱却し、「唯一無二の体験」を提供することがブランディングです。
- 独自の価値提案(USP)の明確化: 「なぜ、この施設を選ぶべきなのか?」という問いに明確に答えられる、競合にはない強み(例:源泉掛け流しの貸切露天、築100年の古民家を改装したヴィラ、地元食材に特化した夕食)を定義します。
- 統一されたビジュアルイメージ: ブランディングに沿ったプロ品質の写真を多数掲載します。写真の質は、予約獲得において最も重要な要素の一つです。客室・食事・共用スペース・周辺環境の魅力を最大限に引き出すビジュアルを、Webサイト全体で統一します。
- ストーリーテリング: 施設が生まれた背景、経営者の想い、地域の文化との繋がりなど、**感情に訴えかける「ストーリー」**を掲載することで、価格競争から一線を画すファンを作り出します。
ステップ2:検索流入の獲得とWeb集客の最適化
魅力的なWebサイトがあっても、見られなければ意味がありません。
- SEO(検索エンジン最適化): 「地域名+宿泊」「施設カテゴリ+特徴」(例:箱根 温泉 貸切、京都 高級 民泊)など、予約検討層が検索する具体的なキーワードで上位表示を目指します。Webサイト制作時からSEO設計を組み込みます。
- MEO(マップエンジン最適化): Googleマイビジネス(現:Googleビジネスプロフィール)を徹底的に充実させます。最新情報、高品質な写真、口コミへの丁寧な返信は、地域検索における露出と信頼度を飛躍的に向上させます。
- リスティング広告・SNS広告の活用: ターゲット層に応じて、予約が埋まりにくい時期や、特定のプランに特化した広告(リターゲティング広告を含む)を戦略的に運用し、Webサイトへの流入を増やします。
ステップ3:「コンバージョン率(CVR)」の最大化
流入したユーザーを確実に予約客に変えるための、Webサイト内部の設計です。
- 予約システムの使いやすさ: 外部の予約システムを利用する場合も、公式HPのデザインとシームレスに連携させ、予約完了までのステップ数を可能な限り少なくします。モバイルでの操作性は特に重要です。
- 価格と特典の「可視化」: **「公式HP限定プラン」「最安値保証」**をファーストビューや各ページ上部に明確に表示します。他のOTAとの価格比較を促す(ただし比較サイトに飛ばすのではなく、公式HPで優位性を主張する)設計も有効です。
- 社会的証明(Social Proof)の活用: 利用客からのレビューや口コミ(GoogleやOTAの評価)をWebサイトに引用・掲載することで、第三者からの客観的な信頼性を高めます。
3. 最新の業界動向と制度改変を踏まえた戦略的施策
宿泊業界は常に変化しています。最新の情勢に対応した戦略は、競合との差別化に直結します。
業界動向1:多様化する「宿泊体験」への対応
コロナ禍を経て、顧客のニーズは「画一的な宿泊」から「個性的な体験」へとシフトしました。特にヴィラや民泊などの**「分散型宿泊施設」**は、このニーズを取り込みやすい特性を持っています。
- 戦略: 公式HPで、**「地域の文化・体験」**との連携を強く打ち出します。例:地元農家との収穫体験、伝統工芸のワークショップ、施設周辺の隠れたトレッキングコース紹介など。これらの「体験」を予約とセットにした限定プランを公式HPでのみ提供します。
- ターゲットインサイト: 若年層や富裕層を中心に、**「人とは違う体験」「その地域ならではの消費」を求める傾向が強まっています。Webサイトは、施設そのものだけでなく、「旅全体をデザインするツール」**としての役割を担うべきです。
業界動向2:インバウンド(訪日外国人)の回復とWeb多言語対応の強化
円安の進行と水際対策の緩和により、インバウンドは急速に回復しています。
- 戦略: 単なる機械翻訳ではなく、自然な表現の多言語対応(特に英語、中国語、韓国語)を施します。特に、予約システムも完全な多言語対応が必要です。日本の独自の文化やルール(例:土足禁止、温泉マナー)を事前に分かりやすく解説するコンテンツも、顧客満足度とトラブル防止に繋がります。
- Web技術の対応: 海外からのアクセス速度を考慮し、画像の最適化やCDN(コンテンツデリバリネットワーク)の活用など、グローバルなWebインフラ整備も視野に入れるべきです。
制度改変:「民泊新法(住宅宿泊事業法)」と「旅館業法」の枠組み
民泊、旅館、ホテルの区別なく、施設運営においては「法的な透明性」が信頼の基礎となります。
- 戦略: 宿泊施設の法的種別(旅館業、特区民泊、新法民泊など)を公式HPに明記し、「安心・安全」を担保します。民泊施設の場合、地域ごとに異なる条例やルールを遵守していることを分かりやすく伝え、不安要素を払拭します。合法的な施設運営は、Googleからの評価やユーザーからの信頼獲得にも繋がります。
4. 売上・利益改善に直結するWeb運用と分析の重要性
Webサイトは「作って終わり」ではありません。継続的な改善こそが、売上と利益改善の鍵です。
施策1:データ分析に基づくPDCAサイクルの確立
Webサイトのパフォーマンスを常に計測し、改善を繰り返します。
- 利用ツール: Google Analyticsで流入経路、離脱率、コンバージョン率を詳細に分析します。
- 分析ポイント:
- どの流入元(OTA、検索、広告、SNS)が最も直販予約に繋がっているか?
- どのページでユーザーが離脱しているか?(特に予約導線)
- モバイルとPCでCVRに大きな差がないか?
- 改善の具体例: 予約導線で離脱が多い場合、予約ボタンの色や文言を変更する、入力フォームを簡略化するなどのA/Bテストを実施します。
施策2:CRM(顧客関係管理)とメールマーケティング
直販予約で獲得した顧客情報を活用し、リピート率を高めます。
- 運用: チェックアウト後のサンキューメール、ターゲットに合わせた限定オファー(例:誕生日特典、前回利用時期に合わせた再訪促進行動)を定期的に配信します。OTA経由では得られない「顧客との直接的な関係構築」が、公式HP最大の強みです。
- ロイヤリティプログラム: 公式HPから2回目以降の予約をした顧客に特別な割引やアップグレードを提供するなど、リピーター優遇制度を設け、OTAへの流出を防ぎます。
施策3:最新情報と鮮度を保つコンテンツ更新
Webサイトが停滞していると、ユーザーは「管理が行き届いていない施設」と認識します。
- 具体例: 季節の食事メニュー、周辺のイベント情報、スタッフブログ、施設の改修・アップデート情報などを、月に数回は更新します。これにより、SEO効果も高まり、リピーターが訪れる理由も生まれます。
【おわりに】Web戦略は「未来への投資」
宿泊施設の経営を取り巻く環境は、制度改変、パンデミック、技術革新により常に変化しています。その中で、**公式ホームページは、あなたの施設にとって唯一の「自社資産」**であり、利益の最大化に直結する戦略的なインフラです。
単に「予約が入る」サイトを作るのではなく、**「施設のブランド価値を高め、優良なリピーターを生み出す」**Web戦略を構築することが、今後の宿泊施設運営のプロフェッショナルとして、最も重要なミッションとなります。
株式会社Archは、1000施設以上の運営とWeb戦略、ブランディングの知見を融合させ、**「オーナー様の利益を最大化する」**ためのWebサイト制作と運営代行をワンストップでサポートしています。
あなたの施設の「Web戦略」を、今一度プロの視点で見直し、利益率の改善へと繋げましょう。
書いた人

株式会社Arch
代表取締役 柴田敬介
1985年兵庫県生まれ。京都工芸繊維大学・造形工学科卒。建築専攻。
新卒でSMBC日興証券株式会社に入社。コンサルタントとして勤務。社内表彰を多数獲得し最年少管理職(当時)に。5年の勤務の後に起業。
2013年、株式会社XS創業。代表取締役就任。Web開発、地方創生ビジネスなどを展開。地方創生では、全国の道の駅グルメNo.1を決定するグルメグランプリを10万人規模で開催。当事業を讀賣テレビ放送株式会社に事業譲渡。
2017年、民泊事業を行う株式会社グランドゥースをAPAMAN株式会社とジョイントベンチャーにて創業。代表取締役就任。その後丸紅株式会社から出資を受け同社の持分法適用会社となる。創業3年で売上13億円、1000以上の施設を運営し、国内最大規模の民泊運営会社となる。AirbnbのBest Contributor Awardを獲得。東証への株式上場を控えていたものの、コロナウィルス蔓延に伴い事業縮小を余儀なくされる。
2023年、これまで培ってきたビジネス開発、ブランディング、Webデザイン、広告などの知見を元に、宿泊施設のブランディング、運営事業を行う当社を立ち上げ、代表取締役就任。