Category: Hotel Management
Author: Shibata
Date: 2025.12.03

こんにちは。株式会社Arch代表の柴田敬介です。
宿泊業界にとって、無視できない大きなニュースが飛び込んできました。2025年12月2日、東京都豊島区において、民泊(住宅宿泊事業)の規制を大幅に強化する条例がついに可決されました。
豊島区といえば、池袋という巨大ターミナルを抱え、民泊施設数は1800件超と全国でも5番目の規模を誇る激戦区です。その豊島区が「量」の拡大から「質」の管理へ、そして「住環境の保護」へと舵を大きく切ったのです。
かつて私は、1000室以上の民泊施設を運営する中で、幾度となく法改正やルールの変更に直面してきました。その経験から申し上げますと、今回の条例改正は「豊島区だけの局地的な話」ではありません。これは、日本の都市型観光の転換点となる出来事だと感じています。
「180日から120日への営業日数短縮」。この数字を見て、撤退を考えるオーナー様も多いでしょう。しかし、ピンチは常にチャンスの裏返しです。市場が淘汰される時こそ、本質的な価値を持つ施設だけが生き残り、より強固な収益基盤を築くことができるタイミングでもあります。
本記事では、決定した条例の詳細をご説明しつつ、私たちが考える「規制強化時代を勝ち抜くための具体的な生存戦略」を徹底解説します。
まずは現状を把握しましょう。今回の条例改正は、既存の民泊運営者にとって厳しい内容となっています。適用開始は2026年12月16日から。残された約1年しかありません。この間に対策を考える必要があります。
最も厳しい変更点がこちらになります。国の法律(住宅宿泊事業法)では年間180日が上限ですが、豊島区は独自の上乗せ条例により、さらに60日を削減し、年間120日(約4ヶ月)までしか営業できないよう制限をかけました。
経営的には大打撃となります。固定費(家賃、ローン、インフラ基本料金、通信費)は365日分かかるのに対し、収益を生む機会が1年のうち3分の1以下になります。一般的な賃貸物件での運用利回りと比較しても、採算が取れない施設が多くなることが予想されます。
これまで豊島区では全域で届出が可能でしたが、新条例では住居専用地域を中心とした区内の約7割のエリアで、民泊の新規設置が禁止されます。
これは「既存施設の希少価値が上がる」という側面と、「出口戦略(Exit)が難しくなる」という側面の両方があります。将来物件を売却しようとした際、次のオーナーが民泊として届け出られないため、投資物件としての価値が大きく変動するリスクがあります。
「ルールを守らない事業者が多すぎる」という住民の不満に応える形で、罰則規定も強化されました。違反した業者に対しては5万円以下の過料が科されます。
主な対象となる違反:
これまでのような「行政指導」レベルではなく、明確なペナルティが課されることで、管理体制の甘い事業者は淘汰されることになります。
背景にあるのは、「観光公害(オーバーツーリズム)」と「住民トラブル」です。 豊島区には民泊施設が全国5位の数存在し、それに比例して苦情も急増していました。
本来、民泊は「暮らすように旅をする」という美しいコンセプトを持っていましたが、一部の利益優先・管理不在の施設によって、地域住民の生活が脅かされる事態となっていました。
この流れは、今後間違いなく他の自治体へも波及します。新宿区、台東区、墨田区など、観光客が集中するエリアのオーナー様も、「明日は我が身」と捉えて対策を講じる必要があります。
では、120日制限という足かせをはめられた状態で、どのように収益を確保すればよいのでしょうか。Archが提案する戦略は大きく分けて3つです。
最も確実で、資産価値を高める方法は、民泊(住宅宿泊事業)の枠組みから脱却し、「旅館業法(簡易宿所)」の許可を取得することです。
簡易宿所になれば、年間営業日数の制限は撤廃され、365日フル稼働が可能になります。もちろん、これにはハードルがあります。
数百万円規模の投資が必要になることもありますが、長期的な視点で「年間245日分の機会損失」を防げるなら、十分にペイする投資です。特に自己所有物件の場合は、不動産としての格(用途)が上がるため、売却時の評価額アップにも繋がります。
用途変更が難しい場合、120日というカードを「最高単価で切れる時期」に集中させ、残りの期間を別の用途で埋める二毛作戦略が必要です。
運用のイメージ:
この運用の鍵は、「切り替えのシームレスさ」です。通常の賃貸借契約(定期借家契約)への切り替え、清掃の手配、集客プラットフォームの使い分けなど、オペレーション能力が求められますが、これを確立できればリスクを分散した安定経営が可能になります。
もし120日しか営業せず、マンスリー需要も見込めない場合、残る道は一つ。「単価を倍にする」ことです。 従来の「ただ泊まるだけの部屋」では、価格競争に巻き込まれジリ貧になります。これからは、「その部屋に泊まること自体が旅の目的になる」レベルのブランディングが不可欠です。
高付加価値化のヒント:
Archでは、既存の民泊施設をリノベーションし、デザインとコンセプトを付加することで、稼働日数が減っても総売上を維持・向上させた事例を数多く持っています。
今回の条例改正の引き金となった近隣トラブルを絶対に起こさないために、そして過料リスクを回避するために、テクノロジーの活用は必須条件です。
これらは「コスト」ではなく、事業を守るための「必要経費」です。しっかりとした管理体制は、近隣住民の方々への説明材料としても機能し、地域との信頼関係構築に役立ちます。
2025年12月の豊島区条例可決は、宿泊業界における「淘汰の始まり」です。 中途半端な覚悟や、いい加減な運営をしている事業者は市場から退場を余儀なくされるでしょう。
しかし、私たちのように真剣に宿泊業に向き合うプロフェッショナルにとっては、競合が減り、質の高いサービスが正当に評価される時代の到来でもあります。
2026年12月の施行まで、約1年あります。今すぐ動き出せば、間に合います。
株式会社Archは、これらの戦略立案からリノベーション、運営代行までを一気通貫でサポートいたします。「自分の物件は旅館業の許可が取れるのか?」「リブランディングでどれくらい単価が上がるのか?」といった疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
逆風を帆に受けて、共にこの荒波を乗り越え、より強い宿泊事業を築き上げていきましょう。
宿泊施設のブランディング、OTA関連施策、マーケティング、各種制作から施設運営まで幅広く対応可能です。
お気軽にお問い合わせくださいませ。