Category: Hotel Management
Author: Shibata
Date: 2026.09.17

株式会社Archの柴田です。
旅館の改修で、「客室を減らして、一室を広くすれば単価を上げられる」という話を聞くことがあります。
実際に、客室を統合して単価を上げた施設はあります。ただし、単価が上がっただけでは、改修が成功したとは判断できません。客室数が減り、稼働率も下がれば、宿泊売上は小さくなる可能性があります。
見るべきなのは、客室数、稼働率、単価の三つと、改修後の人件費や清掃費です。この記事では、観光庁の高付加価値化事例をもとに、減室が成立する条件を整理します。
※事例は観光庁の資料に掲載された2019年と2024年10月末時点の比較です。指標の定義や施設ごとの条件が異なるため、数値だけの単純比較はできません。
観光庁の「高付加価値化改修による客室単価向上事例集」から、6施設の公表値を整理しました。
| 施設 | 客室数・主な改修 | 宿泊単価 | 稼働率 |
|---|---|---|---|
| 常磐ホテル(山梨) | 48室。和室をベッド付き和洋室へ | 16,132円→32,017円(+98.5%) | 非公表 |
| 玄海旅館(福岡) | 和室3室を露天風呂付き洋室2室へ | 11,000円→20,646円(+87.7%) | 25.0%→83.0% |
| 焼津グランドホテル(静岡) | 低稼働客室をラウンジと足湯へ | 13,300円→24,600円(+85.0%) | 非公表 |
| 欽山(兵庫) | 客室統合、露天風呂付き和洋室へ | 45,091円→82,857円(+83.8%) | 72.1%→82.5% |
| 松露亭(京都) | 6室を3室へ統合 | 42,919円→77,850円(+81.4%) | 40.2%→39.2% |
| Entô(島根) | 9室を改修 | 22,000円→39,493円(+79.5%) | 非公表。売上高約4倍 |
単価の伸び率だけを見れば、常磐ホテルが最も高く、Entôが最も低くなります。しかし、Entôは売上高が約4倍と公表しています。単価の上昇率と、事業全体の成果は同じ順位になりません。
客室売上は、概ね次の式で考えられます。
客室売上 = 販売可能客室数 × 客室稼働率 × ADR × 日数
客室単価が上がっても、販売する室数が減り、稼働率も下がれば、売上が増えるとは限りません。
松露亭は6室を3室へ統合し、宿泊単価が42,919円から77,850円へ上がりました。稼働率は40.2%から39.2%です。
この数字を、単価は一室あたり、稼働率は客室稼働率だと仮定して掛け合わせると、次のようになります。
| 改修前 | 改修後 | |
|---|---|---|
| 客室数 | 6室 | 3室 |
| 稼働率 | 40.2% | 39.2% |
| 単価 | 42,919円 | 77,850円 |
| 一日あたりの試算売上 | 103,521円 | 91,552円 |
| 指数 | 100 | 88.4 |
計算上は約12%減です。ただし、これは参考試算にすぎません。公表されている「宿泊単価」が一室あたりか一人あたりか、稼働率が客室基準か定員基準かによって結果は変わります。定員、食事売上、付帯売上も含んでいません。
ここで伝えたいのは、松露亭の成否ではありません。「単価が81.4%上がった」という一つの数字だけでは、売上や利益を判断できないということです。
玄海旅館は単価が87.7%上がり、稼働率も25.0%から83.0%へ上昇しました。欽山も単価が83.8%上がり、稼働率は72.1%から82.5%へ伸びています。
この二つは、単価と稼働の両面で改善した事例です。ただし、改修だけが要因とは限りません。販売方法、需要回復、客層、商品内容なども影響するため、自施設の計画へそのまま当てはめないでください。
減室を判断するときは、売上だけでなく、運営コストも見ます。
客室数や稼働室数が減れば、次の費用や作業が下がる可能性があります。
たとえば宿泊売上が10%減っても、人件費や変動費がそれ以上に下がれば、営業利益は増える可能性があります。反対に、露天風呂付きの広い客室を増やし、一室あたりの清掃時間が長くなれば、室数を減らしても総作業時間が下がらないことがあります。
したがって、減室の判断基準は次の三つです。
観光庁の調査では、宿泊施設の72.2%が人手不足と回答しています。売れる部屋を増やしても、清掃や接客を担う人がいなければ販売できません。減室は、限られた人員で無理なく運営するための選択肢にもなります。
減室だけが高付加価値化ではありません。施設の課題によっては、別の方法が合います。
常磐ホテルは、和室をベッド付き和洋室へ変え、客室数を維持しながら単価を上げました。ベッドを求める高齢者や外国人など、従来の和室では選びにくかった層へ販売しやすくなります。
ただし、設備を変えただけで高い単価を維持できるとは限りません。同施設も、部屋や食事のグレードに見合うサービスが必要だと指摘しています。
焼津グランドホテルは、利用の少なかった客室を宿泊者専用ラウンジと足湯へ転換しました。販売室数は減りますが、残る全客室の滞在価値を上げる考え方です。
慢性的に売れない客室を一室ずつ改装するより、共用の魅力へ変えたほうが、施設全体の単価や満足度に効く場合があります。
客室に問題があるのではなく、写真、プラン名、食事、販売チャネル、価格設定が原因で売れていない可能性もあります。
大規模工事の前に、客室タイプ別の表示回数、予約率、口コミ、キャンセル率を確認してください。写真とプランを変えるだけで反応が改善するなら、先に小さな投資を試せます。
広い客室、露天風呂、複数の水回りは、一室あたりの作業時間を増やします。図面の段階で、清掃、リネン回収、備品補充、配膳を何人で回すか確認します。
「客室数が半分だから清掃も半分」とは限りません。現在の客室タイプごとの作業時間を測り、改修後の時間を見積もってください。
新しい客室だけを写真で強く見せると、来館時に大浴場、廊下、外観など古い部分が目立つことがあります。価格が上がれば、利用者が期待する施設全体の水準も上がります。
改修範囲外の場所を隠すのではなく、写真と説明で正しく見せ、優先順位の高い部分は最低限整えます。
高価格の客室を一度販売できても、料理や接客が価格に見合わなければ再訪につながりません。
工事費とは別に、メニュー開発、器、アメニティ、接客研修、撮影、Webサイトの予算を確保します。二年目以降の単価を支えるのは、建物だけではありません。
工事費を早く回収したくても、改修と同時に想定上限まで値上げすると、稼働率や口コミへ影響する場合があります。
開業時、3か月後、半年後など、段階的な価格を事業計画へ入れます。上位客室と既存客室で価格差をどうつけるかも決めておきましょう。
旅館改修の坪単価として、150万~250万円などの民間目安が紹介されることがありますが、公的な平均ではありません。温泉設備、配管、空調、電気、耐震、防火によって大きく変わります。
解体後に老朽設備が見つかり、当初予算を大きく超えることもあります。複数の見積もりを取り、調査範囲、見積もりの除外項目、予備費を確認してください。
客室タイプごと、月ごとに、販売可能室数、稼働率、ADR、RevPARを出します。全館平均だけでは、売れていない客室と、利益を生んでいる客室が分かりません。
あわせて、一室あたりの清掃時間、リネン費、食事と接客の工数も記録します。
減室後の客室数、稼働率、ADRを置きます。予測は一つではなく、下振れ、標準、上振れの三ケースを作ると判断しやすくなります。
| ケース | 客室数 | 稼働率 | ADR | 年間客室売上 |
|---|---|---|---|---|
| 下振れ | ||||
| 標準 | ||||
| 上振れ |
単価を上げれば必ず稼働率が下がるわけではありませんが、標準ケースで楽観しすぎないようにします。
改修前後で、清掃、リネン、人件費、アメニティ、光熱費、販売手数料、修繕費を比較します。
営業利益の増減 = 売上の増減 - 運営費の増減
露天風呂、食事、送迎など、新しいサービスで増える費用も含めます。スタッフ一人あたりの売上と、一室あたりの清掃時間も並べてください。
改修によって年間の営業キャッシュフローがいくら増えるかを出し、許容できる回収年数から工事予算を決めます。
投資回収年数 = 改修にかかる総投資額 ÷ 改修後に増える年間キャッシュフロー
総投資額には、工事だけでなく、設計、休館中の売上減、備品、撮影、Web、ブランド、採用、研修を含めます。
先に工事の希望を積み上げ、後から必要な売上を作ると、実現性の低い計画になります。利益から使える予算を決め、その範囲で優先順位を付けます。
広さ、設備、食事、接客などの価値が上がり、その価値を求める顧客へ販売できれば、単価が上がる可能性があります。室数を減らしただけでは上がりません。価格の根拠となる体験と販売設計が必要です。
下がる場合があります。客室数、稼働率、ADRを掛けて試算してください。ただし、売上が下がっても運営費がそれ以上に下がれば、利益や一人あたり生産性は改善する可能性があります。
一律の数字はありません。観光庁の事例でも横ばい、上昇、非公表に分かれます。現在の予約データと競合価格を使い、下振れケースを含む三つの想定を置きます。
客室の洋室化、低稼働客室の用途転換、食事やサービスの再設計、写真とプランの改善などがあります。問題が客室数にあるのか、商品と販売にあるのかを先に確認してください。
建物の状態、温泉設備、工事範囲、地域で大きく変わります。ネット上の坪単価は参考にとどめ、現地調査後に複数社から見積もりを取ります。配管や空調などの予備費も必要です。
年度と地域、工事内容によって利用できる制度が変わります。2026年度も省力化や観光地再生に関する事業がありますが、公募時期と対象要件を最新の公式情報で確認してください。補助金の採択を前提にしない収支計画も用意します。
客室を減らして単価を上げた事例はあります。しかし、減室は単価を上げるための公式ではありません。
判断するときは、次の順番で数字を置きます。
工事によって客室を広くしても、料理、接客、写真、販売が変わらなければ、上げた単価を維持できません。誰に、どのような滞在を、いくらで提供するのかを先に決め、建物と運営を一緒に設計してください。
株式会社Archでは、想定ADR、稼働率、運営費から投資回収を試算し、改修予算、ブランド、空間、公式サイト、販売を一つの計画にまとめます。
減室するか、客室タイプを変えるか、共用部へ転換するかを検討する段階からご相談いただけます。ブランドコンセプト設計は30万円、ブランド構築一式は80万円(いずれも税別)からです。
宿泊施設のブランディング、OTA関連施策、マーケティング、各種制作から施設運営まで幅広く対応可能です。
お気軽にお問い合わせくださいませ。