Category: M&A
Author: Shibata
Date: 2026.10.23

民泊物件の売却は、通常の住宅の売却と同じようには進みません。住宅宿泊事業の届出は物件ではなく事業者に対するもので、買主には引き継げません。年間180日の上限と自治体の条例は、買主がその物件で民泊を続けられるかどうかを左右します。マンションであれば、管理規約が民泊を認めているかどうかで、買い手の範囲が大きく変わります。
2026年は民泊の規制が大きく動いた年です。7月に国が条例によるゼロ日規制を容認する技術的助言を出し、新宿区、文京区、台東区などで民泊の新規届出を禁止または制限する条例改正が進んでいます。これらの区域では、民泊物件を民泊として売ることが、近い将来できなくなります。売却を考えている方にとって、今は判断を先延ばしにしにくい局面です。
本記事では、民泊物件を売却する前に確認すべき点を、届出・条例・管理規約の順に整理し、住宅として売る、民泊として売る、旅館業に切り替えてから売る、の3つの売り方の違いと、引き渡し時の実務をまとめます。具体的な査定のご相談は民泊物件の売却・査定ページで受け付けています。
住宅宿泊事業法に基づく民泊の届出は、届出をした事業者(個人または法人)に対するものです。物件を売却しても届出は買主に移らず、買主は自分の名義で新たに届出を行う必要があります。売主は、事業を廃止した日から30日以内に廃業届を提出します。
これは旅館業の許可と似ていますが、旅館業には2023年12月の改正で事業譲渡による地位の承継が認められたのに対し、住宅宿泊事業にはそのような承継の仕組みがありません。民泊として売る場合は、必ず買主が新規に届出をする前提で進めます。
ここで重要になるのが、買主がその区域で新たに届出できるかどうかです。2026年7月15日の国の技術的助言は、自治体が条例で区域を定めて民泊の新規実施を禁止できると整理しました。そして、新規実施が禁止された区域では、売買や承継で届出者が変わる場合も新たな届出が必要になるため、結果としてその物件で民泊を続けることはできない、と明記しています。
| 区域の状況 | 民泊として売却できるか |
|---|---|
| 条例で新規届出が制限されていない | 買主が新規届出をして民泊を続けられる |
| 新規届出の禁止が条例で検討・公表されている | 施行前に買主が届出を済ませる必要がある。施行後は民泊として売れない |
| 新規届出の禁止が施行済み | 民泊としては売れない。住宅として売るか、旅館業への切り替えを検討する |
2026年10月時点で、新宿区(住居専用地域・住居地域・準工業地域・文教地区で原則禁止、2027年6月施行目標)、文京区(区内全域で平日営業禁止、2027年1月施行)、台東区(住宅地などで新規禁止、2027年1月予定)、板橋区(区内全域に規制拡大、2027年4月目標)などで、条例の改正が進んでいます。各区の内容は民泊規制の最新動向(2026年10月版)にまとめています。該当する区域に物件をお持ちの方は、民泊として売るなら施行前に買主の届出まで完了させる必要があり、逆算すると売却活動を始める期限はかなり手前になります。
特区民泊(国家戦略特区の外国人滞在施設経営事業)の認定も同様に事業者ごとのもので、買主には引き継げません。大阪市では2026年5月29日に新規認定の受付が終了したため、大阪市内の特区民泊物件は、認定を保持したまま営業を続けることはできても、民泊として売却することは実質的にできなくなっています。
住宅宿泊事業は法律上、年間180日が営業日数の上限です。さらに自治体の条例で、区域や期間がより狭く制限されている場合があります。買主が民泊として評価する場合、この日数の範囲で見込める純収益が価格の根拠になります。
| 条例の例(2026年10月時点) | 営業できる期間 | 収益評価への影響 |
|---|---|---|
| 上乗せ条例のない区域 | 年180日 | 法定上限で評価 |
| 新宿区 住居専用地域(現行) | 金曜正午から日曜正午のみ(年約100日) | 週末のみの稼働で評価 |
| 渋谷区 制限区域(2026年7月施行) | 年約63日 | 民泊としての収益はほぼ見込めない |
| 豊島区(2026年12月16日から、既存施設も対象) | 春・夏・冬休みの年120日 | 季節限定の稼働で評価。既存施設も対象のため、売主の実績も12月以降は再現できない |
| 文京区(2027年1月から、新規届出) | 区内全域で金曜から日曜のみ | 週末のみの稼働で評価 |
売主が過去に年180日で営業していた実績があっても、買主がその日数で営業できなければ、その実績は価格の根拠になりません。豊島区のように既存施設にも新しい制限が適用される区域では、売主自身の今後の収益も変わります。査定の際は、現行の条例だけでなく、公表されている改正内容も織り込んで日数を見積もる必要があります。
逆に、条例の制限が緩い区域で、稼働率と単価が安定している物件は、住宅としての価格よりも民泊としての価格が高くなることがあります。この場合は、民泊の運営実績を資料にまとめ、民泊を続けたい買主に向けて売り出すほうが有利です。
区分所有のマンションで民泊を運営している場合、管理規約が民泊を認めているかどうかが、売却の前提になります。
2017年の国土交通省によるマンション標準管理規約の改正で、管理組合は規約で民泊を認めるか禁止するかを定められるようになりました。住宅宿泊事業の届出の際には、規約の写しの提出が求められ、規約に民泊の定めがない場合は、管理組合に民泊を禁止する意思がないことを示す書類(総会や理事会の議事録、または誓約書)が必要です。規約で禁止が明記されている場合、届出は受け付けられません。
| 管理規約の状態 | 売主の現状 | 買主が民泊として届出できるか |
|---|---|---|
| 民泊を認める旨の規定がある | 適法に運営中 | できる。民泊物件として売却可能 |
| 民泊の定めがなく、禁止の決議もない | 誓約書などで届出済み | できる可能性が高いが、買主の届出時点で禁止決議がされていれば不可 |
| 売主の届出後に禁止の規約改正がされた | 経過措置の扱いは管理組合による | 原則できない。住宅として売却することになる |
| 禁止が明記されている | 届出が受け付けられない状態 | できない |
実務上の注意点は、売主の届出後に管理組合が規約を改正して民泊を禁止しているケースです。売主は届出時点では適法でも、買主が新たに届出をする時点では禁止されているため、民泊物件としては売れません。売却を決めたら、最新の管理規約と、直近の総会・理事会の議事録を取り寄せて、民泊に関する決議がないかを確認してください。
戸建ての場合は管理規約の問題はありませんが、用途地域と条例の制限、近隣との関係(苦情の履歴)が買主の確認事項になります。

以上の3点を確認したうえで、売り方は大きく3つに分かれます。

民泊の届出を廃止し、通常の住宅(戸建て・マンション)として売却する方法です。買い手は実需の購入者や住宅投資家になり、最も広い市場に出せます。価格は周辺の住宅の取引事例から決まり、民泊の運営実績は価格に反映されません。
向いているのは、条例や管理規約で買主が民泊を続けられない物件、民泊としての収益が住宅価格を上回らない物件、できるだけ早く確実に売りたい場合です。民泊用の家具や備品は、撤去して引き渡すか、買主の希望があれば残置します。
住宅として売る場合、税務上は民泊に使っていた期間が事業用(または貸付用)とみなされるため、居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円控除)は、その部分には原則として適用されません。自宅の一部を民泊に使っていた家主居住型の場合は、居住用部分と事業用部分を按分して計算します。具体的な取り扱いは税理士にご確認ください。
買主が民泊を続ける前提で、運営実績とともに売却する方法です。買い手は民泊運営者や宿泊事業に投資する法人・個人で、価格は純収益を利回りで割り戻した事業価値が基準になります。家具・備品、予約サイトの運営ノウハウ、住宅宿泊管理業者との契約なども引き継ぎの対象にできます。
向いているのは、条例の制限が緩い区域で稼働が安定しており、民泊としての価格が住宅価格を上回る物件です。ただし、買主の届出が完了するまで民泊として営業できない空白期間が生じるため、引き渡し日と届出のタイミングを調整します。届出は受理まで通常2週間から1か月程度かかります。
また、先に述べたとおり、新規届出の禁止が公表されている区域では、施行前に買主の届出を完了させる必要があります。間に合わなければ、売り方1か売り方3に切り替えることになります。
民泊をやめて旅館業(簡易宿所)の許可を取得し、営業日数の上限がない宿泊施設として売却する方法です。許可を取得できれば、事業譲渡による地位の承継が使えるため、営業を止めずに買主に引き継げます。日数上限がなくなる分、宿泊施設としての価格は民泊より高くなるのが一般的です。
ただし、旅館業の許可には、用途地域が旅館業を認める区域であること、建築基準法上の用途変更(延べ面積200平方メートル超の場合は確認申請)、消防法令への適合(自動火災報知設備など)、フロントまたは代替設備の設置など、民泊より厳しい要件があります。住居専用地域にある物件は、原則として旅館業の許可を取得できません。また、新宿区や文京区などでは、民泊規制とあわせて旅館業法施行条例も改正し、フロント設置や従業員の常駐を義務付ける方針が示されています。切り替えに数百万円の工事費と半年程度の期間がかかることもあるため、費用と売却価格の上昇分を比較して判断します。許可取得の流れは旅館業許可の取得フローに、許可取得後の売却は簡易宿所の売却方法と旅館業許可の引継ぎにまとめています。
| 項目 | 住宅として売却 | 民泊物件として売却 | 旅館業に切り替えて売却 |
|---|---|---|---|
| 買い手 | 実需、住宅投資家 | 民泊運営者、宿泊投資家 | 宿泊事業者、インバウンド投資家 |
| 価格の基準 | 周辺の住宅の取引事例 | 180日以内の純収益の還元価値 | 日数上限なしの純収益の還元価値 |
| 届出・許可 | 売主が廃業届 | 売主が廃業届、買主が新規届出 | 売主が許可取得、事業譲渡で承継 |
| 条例・規約の影響 | 小さい | 大きい(買主の届出可否を左右) | 用途地域と旅館業法施行条例の影響 |
| 売却までの期間 | 短い | 中程度(買主の届出待ち) | 長い(許可取得に半年程度) |
| 向いている物件 | 民泊を続けられない区域、収益が住宅価格を下回る | 規制の緩い区域で稼働が安定 | 用途地域が旅館業可、収益性が高い |
売り方が決まったら、引き渡しに向けて次の点を契約で定めます。
| 項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 廃業届のタイミング | 売主は事業廃止から30日以内に届出。引き渡し日に合わせて廃止日を設定する |
| 引き渡し後の予約 | 既に入っている予約を買主に引き継ぐか、売主がキャンセル対応するか。引き継ぐ場合は予約サイトのアカウントの扱いも決める |
| 予約サイトのアカウント | 多くの予約サイトは名義変更ができず、買主が新規開設する。口コミ評価は引き継げない前提で価格に織り込む |
| 住宅宿泊管理業者との契約 | 家主不在型の場合、買主も管理業者への委託が必要。現在の管理業者を引き継ぐか、買主が別に契約するか |
| 家具・備品・消耗品 | 残置するものの一覧と、価格に含めるか別途精算するか |
| 鍵・スマートロック・Wi-Fi | 機器の所有権と契約名義の変更 |
| 近隣への説明 | 条例で近隣への事前周知が義務付けられている区域では、買主の届出前に周知が必要。売主からの引き継ぎの説明も含めて計画する |
| 標識の撤去・掲示 | 売主の標識を撤去し、買主の届出後に新しい標識を掲示する |
このうち見落とされやすいのが、近隣への周知です。渋谷区では届出予定日の60日前まで、文京区や目黒区では15日前までに近隣住民への周知が条例で義務付けられています。買主の届出をいつまでに完了させたいかから逆算すると、売買契約の締結時期も前倒しになります。

査定と販売資料の作成に必要な書類です。民泊として売る場合は特に、運営実績を示す資料が価格に直結します。
苦情の記録は出しにくい資料ですが、買主は届出時に自治体から過去の苦情の有無を確認されることがあり、後から判明するより先に開示したほうが交渉は進めやすくなります。
できます。営業を続けたまま売り出し、引き渡し日に合わせて廃業届を出す形が一般的です。内見の際は宿泊者がいない日程で調整します。引き渡し後の予約の扱いは売買契約で定めます。
施行前に買主の届出が受理されていれば続けられます。契約から届出受理までには、近隣への周知期間(区によって15日から60日前)と審査期間(2週間から1か月程度)が必要なので、施行日から3か月程度は手前で売買契約を結んでおく必要があります。
届出が引き継げない点は同じです。買主が自分で住みながら民泊をするのであれば、家主居住型として新規に届出をします。新宿区の改正案のように、家主居住型は例外として一定の日数を認める区域もあるため、買主の属性によって民泊を続けられるかどうかが変わります。
認定は引き継げず、大阪市では新規認定の受付が終了しているため、大阪市内では民泊としての売却は実質的にできません。住宅として売るか、用途地域と建物の条件が合えば旅館業の許可を取得して宿泊施設として売る、の二択になります。
あります。物件を保有したまま運営を委託する、または賃貸して借主が民泊を運営する形です。ただし借主が民泊をする場合も借主名義の届出が必要で、条例の制限は同じように受けます。売却と保有のどちらが有利かは、今後の規制の見通しと手取りの比較で判断します。
民泊物件の売却は、届出が引き継げないという前提から始まります。買主がその物件で民泊を続けられるかどうかは、自治体の条例と、マンションであれば管理規約で決まり、2026年の規制強化によって、民泊として売れる区域と期間は狭まっています。
住宅として売る、民泊物件として売る、旅館業に切り替えてから売る、の3つの売り方は、物件の区域、収益性、建物の条件によって向き不向きが分かれます。条例の改正が公表されている区域では、民泊として売るなら施行前に買主の届出まで完了させる必要があり、売却の判断と着手は早いほうが選択肢を残せます。
株式会社Archでは、1,000施設以上の民泊・宿泊施設の運営経験をもとに、民泊物件の査定、売り方の選定、買主探し、旅館業への切り替えの検討まで対応しています。民泊物件の売却・査定ページから匿名でのご相談も受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
本記事は2026年10月時点の法令・条例に基づいています。条例の内容は自治体ごとに異なり、改正が続いているため、実際の手続きにあたっては所管の自治体および専門家にご確認ください。
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