ホテルの売却価格はどう決まるか|収益還元法の計算手順と、査定で見られる10の項目

Category: M&A
Author: Shibata
Date: 2026.10.27

ホテルの売却を検討するとき、最初に知りたいのは、いくらで売れるのかです。ホテルの価格は、住宅のように周辺の取引事例だけで決まるものではなく、そのホテルが生み出す収益を、買い手がどの利回りで買うかによって決まります。同じ建物でも、稼働率と客室単価、運営の形態、修繕の状態、契約の内容によって、提示される価格は大きく変わります。

本記事では、ホテルの売却価格の中心になる収益還元法の計算手順を、数字の例を使って順に説明し、2026年時点の期待利回りの水準、運営形態による評価の違い、買主が査定で見る項目、売却前に価格を上げられる点を、1,000施設以上の宿泊施設の運営に関わってきた株式会社Archが整理します。具体的な査定のご相談はホテルの売却・不動産査定ページで受け付けています。

ホテルの価格を決める3つの評価方法

不動産の価格を求める方法には、収益還元法、取引事例比較法、原価法の3つがあります。ホテルの売却では、このうち収益還元法が中心になり、ほかの2つは確認と補正に使われます。

評価方法求め方ホテル売却での役割
収益還元法年間の純収益(NOI)を還元利回りで割り戻す価格の中心。買主はこの方法で投資判断をする
取引事例比較法同じエリア・規模の取引事例と、客室1室あたりの価格を比べる収益還元法の結果が市場の水準から外れていないかの確認
原価法(積算価格)土地の価格に、建物の再調達原価から経年減価を引いた額を加える金融機関の担保評価。買主の借入可能額に影響し、結果として価格の下限や買主の範囲を決める

収益還元法が中心になる理由は、ホテルの買主の大半が、賃料や運営益を目的に購入する投資家や事業者だからです。実需として自分で住むために買う住宅とは、価格の決まり方が根本的に違います。

収益還元法の計算手順

収益還元法は、年間の純収益を還元利回りで割る、という一つの式に集約されます。式は単純ですが、純収益をどう出すか、利回りを何%と見るかで、結果は大きく変わります。順を追って見ていきます。

手順1:売上(GOP以前)を整理する

まず過去3年程度の年間売上を、客室売上、料飲売上、その他売上(宴会、物販、駐車場など)に分けて整理します。客室売上は、客室数、稼働率、客室単価(ADR)の掛け算で説明できる形にしておきます。たとえば50室、稼働率80%、ADR 15,000円であれば、客室売上は50室×365日×80%×15,000円で約2億1,900万円です。

直近1年だけでなく3年分を見るのは、一時的な要因(周辺のイベント、改装休業、コロナ禍からの回復局面など)を除いた平常時の水準を買主が知りたいためです。

手順2:運営費用を引いてGOPを出す

売上から、運営にかかる費用(人件費、水道光熱費、清掃・リネン、予約サイト手数料、消耗品、販促費、運営委託料など)を引いた額が、GOP(営業総利益)です。ホテルの収益性を示す基本の指標で、売上に対するGOPの比率(GOP率)は、宿泊特化型で30〜45%程度、料飲部門を持つホテルではそれより低くなるのが一般的です。

予約サイトの手数料は、売上の10〜20%を占めることがあり、GOPへの影響が大きい項目です。直接予約の比率が高いホテルは、同じ売上でもGOPが厚くなり、価格に反映されます。手数料の実態の出し方はOTAの実効手数料の計算手順にまとめています。

手順3:所有者の費用を引いてNOIを出す

GOPから、所有者が負担する費用(固定資産税・都市計画税、建物の保険料、資本的支出の引当(FF&Eリザーブ、売上の3〜5%程度を見込むことが多い)、運営契約に基づく基本報酬など)を引いた額が、NOI(純収益)です。収益還元法で割り戻す対象はこのNOIです。

項目金額の例(年間)備考
客室売上2億1,900万円50室×365日×稼働80%×ADR15,000円
その他売上1,100万円朝食、自販機、駐車場など
売上合計2億3,000万円
運営費用1億4,950万円売上の65%。人件費、光熱費、清掃、予約サイト手数料、販促など
GOP8,050万円GOP率35%
所有者費用1,850万円固定資産税等900万円、保険100万円、FF&Eリザーブ(売上の3%)690万円、その他160万円
NOI6,200万円NOI率27%

手順4:還元利回りで割り戻す

NOIを還元利回り(キャップレート)で割ると、収益価格が出ます。上の例でNOIが6,200万円、還元利回りが5.0%であれば、6,200万円÷5.0%で12億4,000万円です。利回りが4.5%なら13億7,800万円、6.0%なら10億3,300万円になります。利回りが0.5ポイント動くだけで価格が1億円以上変わるため、売却の交渉は、NOIの妥当性と利回りの水準をめぐって行われます。

還元利回り収益価格(NOI 6,200万円の場合)
4.0%15億5,000万円
4.5%13億7,800万円
5.0%12億4,000万円
5.5%11億2,700万円
6.0%10億3,300万円
7.0%8億8,600万円

2026年の期待利回りの水準

還元利回りは、立地、築年数、運営形態、市場の資金環境によって決まります。目安として、日本不動産研究所が半年ごとに公表している不動産投資家調査の、宿泊特化型ホテルの期待利回りを見ておくと、買主がどの水準で考えているかが分かります。

地区期待利回り(2026年4月)前回(2025年10月)からの変化
東京4.1%0.1ポイント低下
京都4.5%0.1ポイント低下
大阪4.5%横ばい
福岡4.7%0.1ポイント低下
名古屋4.9%0.1ポイント低下
札幌5.0%横ばい
那覇5.0%横ばい
仙台5.3%横ばい

出典:日本不動産研究所 第54回不動産投資家調査(2026年4月現在)

東京の4.1%は調査開始以来の低い水準で、ホテルが投資対象として強く買われている状況を示しています。ただしこの数値は、都市部の駅近で築浅、大手運営会社との契約があるような、投資家が標準的と考えるホテルを前提にしたものです。地方都市、観光地、築年数の古い建物、小規模なホテル、運営が属人的なホテルでは、これに1〜3ポイント程度のリスクプレミアムが上乗せされ、6〜8%程度で評価されることも珍しくありません。

利回りの水準は、金利の動向にも左右されます。2026年に入り長期金利は上昇傾向にありますが、ホテルの期待利回りは依然として低下しており、インバウンド需要を背景にした買い意欲が金利上昇を上回っている状態です。この環境がいつまで続くかは読めないため、売却を検討している方にとっては、利回りが低い(価格が高い)うちに動くという判断が合理的な局面です。

運営の形態で評価の前提が変わる

同じ建物、同じ売上でも、所有者と運営者の関係によって、買主が受け取る収益の性質が変わり、評価も変わります。

運営形態所有者の収益買主の見方利回りへの影響
自己運営(所有と運営が同じ)売上から全費用を引いたNOI運営のリスクも引き継ぐ。買主が運営会社なら自社運営に切り替える前提で見る運営の属人性が高いと利回りは高め(価格は低め)
賃貸借(運営会社に建物を貸す)賃料収入安定した賃料が続くかを見る。運営会社の信用力、賃料の固定・変動の別、契約残期間固定賃料で大手運営会社なら利回りは低め(価格は高め)
運営委託(MC契約)売上から運営費と委託報酬を引いた額運営会社の実績と契約条件を見る。契約の解約条件が重要契約内容次第。長期で解約しにくい契約は買主を選ぶ

既存の運営契約や賃貸借契約がある場合、買主はその契約を引き継ぐのが一般的です。契約の残期間、賃料や報酬の水準、解約条件、改装義務の有無は、価格と買主の範囲の両方に影響します。契約書を整理し、買主が引き継ぐ条件を明確にしておくことが、査定の前提になります。

査定で見られる10の項目

買主と仲介会社がホテルの査定で確認する項目を、収益、建物、権利・契約の3つに分けて整理します。

区分項目見られる内容
収益1. 稼働率とADRの推移過去3年の月別推移。季節変動と直近のトレンド
収益2. 販売チャネルの構成OTA・直接予約・法人契約・旅行会社の比率と手数料負担
収益3. 費用構造とGOP率人件費率、水光熱費、清掃単価。同規模ホテルとの比較
収益4. 口コミ評価主要予約サイトの評点と件数。単価と稼働の持続性の根拠
建物5. 築年数と構造新耐震か旧耐震か。耐震診断の有無
建物6. 修繕履歴と大規模修繕の見込み外壁、防水、空調、給排水、エレベーターの更新時期。今後5年の資本的支出の見込み
建物7. 検査済証と法適合検査済証の有無、増改築の確認申請、消防法令適合通知書、旅館業許可の内容と現況の一致
権利・契約8. 土地の権利所有権か借地権か。借地なら残期間、地代、譲渡承諾の条件
権利・契約9. 運営契約・賃貸借契約契約の相手方、残期間、報酬・賃料、解約条件、引き継ぎの可否
権利・契約10. 従業員と取引先不動産売買なら原則引き継がれないが、運営の継続性として買主が確認。M&Aなら引き継ぎの対象

このうち、価格への影響が大きく、かつ売主側で事前に準備できるのは、2の販売チャネル、6の修繕の見込み、7の法適合、9の契約の整理です。

売却前に価格を上げられる点

査定の結果を見てから動くより、売り出す前に手を打ったほうが、価格に反映しやすい項目があります。

施策価格への効き方期間の目安
直接予約の比率を上げる予約サイト手数料が減り、同じ売上でGOPとNOIが増える。NOIが500万円増えれば、利回り5%で価格は1億円上がる6か月〜1年
費用の見直し清掃・リネンの契約単価、水光熱費の契約、保険の見直し。NOIに直接効く3〜6か月
客室単価の改善稼働率を落とさずにADRを上げられれば、GOPはほぼそのまま増える。客室数を減らして単価を上げる方法もある6か月〜1年
修繕の計画を文書化する今後の資本的支出を買主が見積もりやすくなり、不確実性によるディスカウントを避けられる1〜2か月
法適合の不備を是正する検査済証がない、消防設備の点検が止まっているなどの不備は、是正費用以上に価格を下げる。先に直すか、調査報告書を用意する1〜3か月
契約の整理運営契約や取引先との契約の条件を一覧にし、承継可否を明確にする1か月

客室数と単価の関係は客室を減らすと単価は上がるのかで、売却を見据えた収益改善の考え方はホテルの出口戦略と売却価格の最大化で詳しく扱っています。

不動産として売るか、運営会社ごと譲るか

ホテルの売却には、土地建物を不動産として売る方法と、運営会社の株式や事業を譲渡するM&Aの方法があります。価格の考え方は共通して収益が基準ですが、買主が引き継ぐ範囲が異なります。

項目不動産売買M&A(株式譲渡・事業譲渡)
対象土地・建物(+付帯設備)会社または事業(不動産、契約、従業員、許認可、ブランドを含む)
従業員原則引き継がれない原則引き継がれる
旅館業許可買主が新たに取得(または事業譲渡の承認で承継)株式譲渡なら法人が保有したまま
価格の基準NOIの還元価値事業価値(EBITDA倍率など)から純有利子負債を引いた株式価値
向いている場合建物の価値が中心で、買主が自社運営に切り替える運営体制とブランドに価値があり、営業を止めずに引き継ぐ

どちらが有利かは、買主の属性と、売主が何を手放したいかで決まります。M&Aの進め方はM&A・事業承継(譲渡)のページに、手数料はM&A手数料のページにまとめています。

よくある質問

赤字のホテルでも売却価格は付きますか?

付きます。収益還元法ではNOIがマイナスなら価格が出ませんが、買主が自社運営に切り替えて黒字化できる見込みがあれば、改善後のNOIで評価されます。また、立地と建物に価値があれば、原価法や取引事例比較法を基準にした価格になります。赤字の原因が運営にあるのか、立地や建物にあるのかで、買主の範囲と価格が変わります。

築40年を超えるホテルの価格はどう見られますか?

旧耐震基準(1981年5月以前の建築確認)の建物は、耐震診断と補強の要否が最初に確認されます。建物の評価は低くなりますが、立地が良ければ、建て替えや大規模改修を前提に土地の価値で買う投資家がいます。この場合、収益還元法より原価法や開発法に近い考え方で価格が決まります。

査定にはどのくらいの期間がかかりますか?

過去3年の収支、修繕履歴、契約書、図面がそろっていれば、1〜2週間程度で価格の目安をお出しします。資料がそろっていない場合は、まず資料の整理から始めるため、その分の期間がかかります。

売却価格に消費税はかかりますか?

建物部分には消費税がかかり、土地部分にはかかりません。売買価格を土地と建物に按分して契約書に明記します。按分の方法は固定資産税評価額の比率を使うのが一般的ですが、買主の減価償却に影響するため、交渉の対象になることがあります。税務上の扱いは税理士にご確認ください。

査定額と実際の売却価格は違いますか?

違うことが多いです。査定額は市場の水準から見た目安で、実際の価格は、買主の数、買主ごとの事業計画、資金調達の条件、交渉の過程で決まります。複数の買主候補に同時に打診して競争環境をつくることが、査定額に近い、あるいは上回る価格で売るための基本的な方法です。

まとめ

ホテルの売却価格は、年間の純収益(NOI)を還元利回りで割り戻した収益価格が中心になります。NOIは売上から運営費用と所有者費用を引いて求め、還元利回りは立地、築年数、運営形態、市場環境で決まります。2026年4月時点の宿泊特化型ホテルの期待利回りは東京で4.1%と過去最低の水準にあり、売り手にとっては有利な環境が続いています。

価格を左右する要素のうち、直接予約の比率、費用構造、修繕計画の文書化、法適合の是正、契約の整理は、売り出す前に売主側で改善できます。査定を依頼する前にこれらを整えておくことが、手取りを増やす最も確実な方法です。

株式会社Archでは、1,000施設以上の宿泊施設の運営経験をもとに、ホテルの査定、売却前の収益改善の助言、買主探し、不動産売買とM&Aの選択まで一貫して対応しています。ホテルの売却・不動産査定ページから匿名でのご相談も受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

本記事の数値例は説明のための仮定です。期待利回りは2026年4月時点の調査値であり、個別の物件の価格は市場環境と物件の条件によって異なります。

参考資料

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